フライブルクの朋友
吉岡孝次

帰り際 コネクションは自壊した
赫く列んだ椅子と 刃のような筆跡が
心象を綴るノートの上で交錯する
剥ぎ取った便箋は生きている
立ち止まれないからこそ誰もが道を誤る
まるで譲られた肌寒い神学を抱え込むように
目していた苦悩からさえ 誰何されぬまま
離れて
あの情熱の射手が パースペクティヴを失ってしまった
思い出して呉れ
ひとは懸命でも そうでなくても許されていいのだ
天与を越えた課題を果たそうとして
身丈に合わない服に傷つく謂れなど ないのだ
僕等はこの後も何度か書簡を交換するだろう
互いの仕事に何処かで触れる機会もあるかもしれない
切れ切れの困惑が一つに繋がる 雲のように

  「文通を絶って」とまで書いて
  自叙伝は 逡巡する
  比喩一つとってみても
  アプローチの傾き具合が違っていた
  ひそかに削った一行のなか
  眼鏡を直して話を終えたきみは
  いつしか重い扉を見つめていたようだった

揃わぬ拍手が両翼からきみを嗤っていた


自由詩 フライブルクの朋友 Copyright 吉岡孝次 2005-04-08 21:05:55
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