大阪環状線
にゃんしー

「環状線に乗っていつまでも回っているのが好きなの」

東京から来た彼女は言った。

それでも大阪環状線は
大阪以外からやってきた人を
大阪の外に吹き飛ばしてしまう。

奈良から来た人を奈良へ。
和歌山から来た人を和歌山へ。
東京から来た人を関西空港へ。

帰れといわんばかりに吹き飛ばしてしまう。

「環状線に乗っていると正しくいられる気がするの」

東京育ちの彼女は言った。

それでも大阪環状線は
正しい人を
正しくないところへ吹き飛ばしてしまう。

ミッキーマウスをUSJへ。
食い倒れてない人形をなんばへ。
東京育ちを関西空港へ。

間違いなさいといわんばかりに吹き飛ばしてしまう。

「感情線に触れていると幸せになれるの」

占いが趣味だという彼女は言った。
初めて僕の手を触れたとき。

それでも僕の感情線は
好きな人を
好きではないところへ吹き飛ばしてしまう。

恋を出来心へ。
愛を同情へ。
心を身体へ。

好きではないといわんばかりに吹き飛ばしてしまう。

「いつまでも一緒にいたい」

東京に帰るとき、彼女は言った。

いつでも大阪環状線は
大阪以外からやってきた人を
大阪の外に吹き飛ばしてしまう。

だから僕は大阪の外にいるとき
彼女の姿を探してしまう。
そこに吹き飛ばされてはいないだろうかと。

奈良を、和歌山を、関西空港を、
なんばを、USJを、最後に会った場所を、
探してしまう。

それでも僕の感情線は
僕以外からやってきた人を
僕の外に吹き飛ばしてしまう。

だから僕は僕の外にいるとき
彼女の姿を探してしまう。
そこに吹き飛ばされてはいないだろうかと。

出来心を、同情を、身体を、
好きではないもののなかに紛れてはいないだろうかと、
最後に会ったときの感情を、探してしまう。


自由詩 大阪環状線 Copyright にゃんしー 2020-01-07 17:03:48
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