無敵の人(初稿)
れつら

焼け焦げた影がひとかたまりついてくる


  無敵の人


いきがかりの道なりは非論理が連なり
明日まで継がれた暗がりは八方塞がらず
もう疲れた帰ろうかと思いこもうとする
体力をゲーム状にタンクに見立てると
八割から減らない 減ることを知らないほど最初から僅か
その虹色にきらめく弱粘性のオイルを抱えて
美も醜も、死臭も
波打つ体内で揺らして
頭の中で電子的な戦争を繰り広げながら
半透明の通路を行き交う
毛並みの悪い無色の動物
すれ違いに吠え立てることを挨拶代わりにする
筋肉がよわり小太りになった狼
天然のゆるいパーマが伸び切って顔を半分覆い
外光に晒されると仄白くまるで羊
丘の上を灰色に埋め尽くし、ゆっくりとフリーズ
なにもかもが静止して自分以外をリロードし続ける
画面を引っ張っても破いても
なにも出てきやしなかった真っ白な日
ようやく電源が切れた


あの最高の出来事…


あの最高の時間…


胸ポケットにライター、入れたかどうか不安になって尻ポケットにも入れると
家の鍵を忘れるけど問題ない、もう帰るつもりもない
帰って失うものもない
寝ながらに書いたプロットがあまりにありふれて
しかしありふれた生でいいんだと肯定して
そのせいか簡単にコピーされ流布してしまった
もうどちらが子で親かわからないほど
遺伝情報が劣化した物語の断片が散乱してる
自宅の海の底で
探査班に号令をかけたけど
探すより買ったほうが早いけどな、と言ったっきり
該当する件数が多すぎる書類の山に置かれたままになった

それは自己愛だよ、と一蹴された理解
そうは思わない けど反駁なく オートコンプリート
できるだけ類推しやすく アナグラム組んだパスコード
コピーされた証明書にきらり光るホログラム
記号化とフォークロアの同種交雑
運ぶべき文字量より増えてしまった伝達速度
酸素を失った赤血球が路頭に迷って
運ぶべき感情を捏造する
熱を持った神経は冷えるまでこの都市の中 伸び切って
責任を取らないコンクリートが突っ立ってる
その上を並行とって歩く君の子どもも
鼻唄なんか歌ったりするんだろうね
それが誰の歌かも知らずに
タイトルにはいつも無敵の人
でもあまり姿をあらわさないね、僕らの前には


あの最高の出来事…


あの最高の時間…


一見単なる空疎な自然に
意味を与えていくことが僕らの遊びで
そこでは不可算有数の主観がうろついてる
もちろん僕や、君の子ものひとりで
警察や正義、イデオロギーはもちろん、
この国には、組織自体がない
でもなんとなくやっていけるよ
みんな馬鹿じゃないんだからさ…

今がいやだと言うわけじゃないけど
たぶん知恵が少し足りない
出会う機会が少し足りない
満足しやすく空腹が足りない
期待がないから怖くもない
死ぬほどつらいわけでもない
けどこれ以上努力をする気にはならない
自分以外に好きなものがない

誰かを見てはならず
誰かに聞いてはならず
誰も行くことない場所には
行くべきではなく
誰にも似てはならず
あなたは僕を守らず
その訳はひとつではなく
でもひとまず
今日もひとまず
人を憎まず
過ごせと人に言われるからさ…

言葉にならない 存在しない出来事を形而上で連弾する
速弾きしか能がないピアニストたちのひとかたまり
手と手が器用に交錯しぶつかることはない映画館
仲良く隣り合い シリアルキラーを眺めている
風景を無自覚にみたまんま文字化して
ちょーよかったと慰め合う海に かがり火が焚かれていく
悲しいニュースをみて「悲しい」と口に出す
そのくちびるのカタチを確かめて、笑える
なぜだか加害者に感情移入してしまう
けど今日のニュースじゃさ…
打ちそびれた言葉がものにならず
視界にないものはしかたない 諦める盲(めくら)たち
くるくると上空に旋回すると
奥行きのない三次元でまた感情にすり替わる

気づいているかもしれないけど
あなたはあらゆる出来事の前にいない
戸口の前で、祈りだなんだと捧げたがるけど
その涙が傷にしみることはない
こんなにやさしくされたことはない
それを やさしさと知っているけど
それがなぜかはよくわからない
そもそも記憶がない 記憶する気もない
記憶を保持する容量が足りない
覚えていないといけない
と思った覚えがないし 思えない


真夏にキラキラする海まで行って、きゅうになんか叫ぶ声を聞いて、眉を顰め目前
を跳ねる光線が皮膚を焼き、殺すほどではない爛れが全身に廻り、痒みに爪を立て
る、掻きむしる、駆け巡る記憶の覚束なさ、恥ずかしさに沸騰し、赤面すると急
に、駆け出すと目立つんじゃないかって、誰かの役に立ちたかった、目立ちたいわ
けじゃなかった、肺が熱くなって息が吸えなくなって


あの最高の出来事…


あの最高の時間…


でも今日のニュースじゃさ...


誰かを見てはならず
誰かに聞いてはならず
誰も行くことない場所には
行くべきではなく
誰にも似てはならず
あなたは僕を守らず
その訳はひとつではなく
でもひとまず
今日もひとまず
人を憎まず
過ごせと人に言われるからさ…


それは僕のことじゃないよね
でもそれでよかった?
それは君の子どもじゃないよね
でもそれでよかった?



自由詩 無敵の人(初稿) Copyright れつら 2019-12-28 12:09:27
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