スキヤキオブザデッド
ふるる

この時ー恐ろしい予感は当たっていたー
すき焼きなのに肉がない!
先輩は突然ゲラゲラ笑いはじめ、急に真顔になって
「心配ないとも。すべてが上手くいく」と言った
いくもんか…
豆腐だけのすき焼きなんて嫌だ

12月寒空の中、早足で肉を買いにいくと
月に照らされたすべての家のポーチでは藤のブランコが揺れていて
星空を背負った枯れ木はきらきらと震え
青白く浮かぶブランコに座るだけで安心できたのだけれども無視して駆け抜ける

急な場面転換のためには主人公は失神したらいいけど
ホラー小説でなければそんなに簡単に失神はできないだろう
すき焼きの時に失神なんかしてる場合じゃない
この肉は俺のもの
運転免許を取ったのは万が一ゾンビに襲われたとき逃げるためだ
車のキーのありかは…わかるな?
さあ早く走れ振り返るな

気がつくと見知らぬ場所に倒れていて
簡潔に説明すると
肉がないのは
連絡ミスと慌ただしさが重なったせいだ
その複雑な経緯を
簡単には説明できそうもない
初めての都会はごちゃごちゃして
ラッシュアワーも大変だったし
変な絵を買わされそうにもなった
「オブザデッド」というタイトルだった
絵画にタイトルがつけられるようになったのはわりと最近
なぜなのかは各自来週までに調べてくるように
はいはいはーい
みなさん静かになるまでに75秒かかりました!
ネギが煮えるまではあともう少しかかりますから
お箸をスタンバイ
フライングはなしで

大きく目と口を開いた怯え方は全く大げさにすぎると言わざるを得ない
つぶれたサンドイッチがリュックの底から見つかって
ふられたばっかりみたいに元気のないサンドイッチを一口かじると猛烈にお腹が減っていた
しかしこの空腹感は
簡単に満たせそうもない
もう時間がないのに
どのくらいの空腹感なのか
詳しいことはまだわかっていない様子です、は、
急ぎお伝えしました現場からは以上です

以上ですがここまでで何かご質問はありますか?
なければ次へ

肉を買いにどこまで行ったんだ?
なんか外が騒がしいな…

と、つぶやいた先輩の後ろには



自由詩 スキヤキオブザデッド Copyright ふるる 2019-12-26 15:11:33
notebook Home 戻る  過去 未来