言葉のボール
服部 剛

特別支援学校に通う
息子が二年生の
ある夜
初めて妻に打ち明けた

ダウン症告知のあの日以来
息子について後ろ向きなことは
もう決して言うまいと
心に決めていたことを

語らう夫婦の目線の先で
おさな子の面影のまま夢を見る 
息子の寝顔は
いとおしい
いとおしい、が 
胸の内の葛藤は
あれから消えたわけじゃない 

言葉のボールを息子に
投げても、投げても、返らずに 
ぽとり、と地面に落ちる
――息子は壁か/壁じゃない 
の、自問自答の日々は
今も続く 

ずっと妻を気遣い
口に蓋をしていたと
打ち明けたら
かえって妻にはよかったらしい

息子についての
深い悩みを抱えるのは
――私だけではなかった と

午前〇時過ぎ 
すやすや寝息をたてて
ママの隣で眠る子よ

パパはこれからも数え切れないほど 
君に言葉のボールを投げるだろう

 いってらっしゃい おかえりなさい
 いただきます ごちそうさま 
 おはよう おやすみ 
 ごめんなさい ありがとう

――世界にひとりの我が子よ 

君が決して無言の壁ではなく
いつか〝ママ〟と言う日を夢見て
パパは明日も、ボールを投げる  






自由詩 言葉のボール Copyright 服部 剛 2019-12-19 23:36:58
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