ノート(擦音)
木立 悟



どこにいるのだろう
時間を記録していた
たくさんの指は
どこへいってしまったのだろう
絵の具の味をした水が
一本の髪の毛から
くちびるへとくちびるへと
終わることなく落ちてくる



鉄の壁さえ裂く風が
街の影にじっとしている
爪跡につもる埃には
光の吹きだまりが見えている



骨を聴き
迷いは集まってくる
渦のなかを直ぐに降る雨
まだ何かがあるのだろう
今も無音は燃え尽きない



避けることもかわすことも知らずに
砕けながら生きてきて
まともなところは脚しかないのに
自身の光に気づかないまま
光へと光へと歩もうとする



くすぶる土には傷があり
小さな音をたてている
拾おうとしてすれちがう
指と指のあいだには
灰と銀の街があり
水彩に水彩を響かせて
午後を揺らしつづけている








自由詩 ノート(擦音) Copyright 木立 悟 2005-04-07 18:29:17
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