一夜、すぎ
秋葉竹

一夜、すぎ
油の匂いのする聖水の
油膜を
洗い、すすげない、
その匂いにキャンキャン鳴いている
かしこい顔の犬を追いはらい、
泣きそうな君を
バス停までだけどね
見送ったのに、
君の、
うしろ姿はしぐれていった、から
山頭火か、と
見まごうばかりの
寂しさがあったりね、

柔らかな髪が長いのが
復活記念の証しだという、
風の吹く渓谷にある
新しい竜の影絵に向かい、
君はしな垂れ掛かりにゆくの、かね?

電気バスは音を殺して、
よからぬ想いの僕を見棄てて、
スーッと走ってゆくの、かね?

ふて寝して
ふたりっきりの、あの
青空のような時間を
小刻みに震えながら、
想いかえしては、感じるの、かね?
それとも、返して、欲しいの、かね?

なにも、棄てないさ

この手に握った突風の跡には、
君の笑顔の写真しか、
残されていないのだから。

それさえ、幻の蜃気楼だと
嗤う、かね?

《ソンナ訳ニハ、イカナイ》

一夜、すぎ
ほんとうがあった、ことは
ずいぶんと昔から知っていたし、

いまも、知っている、
ものなのだから。










自由詩 一夜、すぎ Copyright 秋葉竹 2019-12-17 22:16:36
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