天使はみんな恩知らず
もとこ

「わたし壊れてるから優しくしてね!」
って微笑みながらナイフで切りつけるスタイル
抵抗してはダメ、声を出してもダメ
水気の多い果実を切った匂いが部屋に満ちる

(ほうら、やっぱりそんなオチ)

割安のサービスランチで昔日の栄華を反復する
かつてわたしはショーウインドウの中で着飾り
ガラスの向こうの世界に媚を売っていた
王子様のお買い上げだけを夢見ながら

(どうせなら中指を立ててやればよかった)

「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのは誰?」
一日の始まりと終わりには必ず
鏡の中の肉塊に問いかける
「今さらそれを知ってどうするんだい?」

最近は眠れない夜ばかり引き当てる
ダイヤルを適当に回して出た相手に
今までの反省点と今後の決意を報告すると
「手遅れね……もう火葬は始まってるよ」
眠そうな声が告げて電話は切れた


自由詩 天使はみんな恩知らず Copyright もとこ 2019-12-17 21:54:30
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