ノート(56Y.11・26)
木立 悟





こむずかしいことを言う奴は殺す
わからないことを言う奴から殺す
真夜中にひとり 径を歩いているだけなのに
それを咎めるような奴は殺す


崖の途中にぶら下がる屍体
月と陽と潮風と浪と
人しか喰えなくなった鳥に喰われて
骨だけになった晒し者の姉


骨だけになっても殺す
粉々になっても殺す
お前が誰であっても殺す
俺に近づくものは殺す


二階建ての家の屋上で
ここから飛び降りて死ねと言う
ひとりが死ぬには低すぎるじゃないか
お前も一緒に地の泥を呑め


俺の影を踏むな
俺だけを照らす
星の火を踏むな
俺の指を覆う羽に触れるな


愛想笑いの亡霊が
雹と墓石のはざまに立ち
嗤い沈み 騒がしい
既に人ではないというのに


砕けた標識灯の冠
光のなかに消える光
弱い光を拾い集める
常に瘡蓋だらけの中指で


大陸を巡り 殺しつづけ
海に海を重ねて殺し
見わたす限りひとりになり
空の弦の終わりを見る


















自由詩 ノート(56Y.11・26) Copyright 木立 悟 2019-12-13 21:56:02
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
ノート