思椎の森で化石になってしまった 散文編
こたきひろし

市営公園の駐車場に停めた車の中、運転席で仮眠までにも至ってもいなかった。意識が散らかってまとまりがついていない。が、疲労感は限界に近づいていて体は熟睡を求めているに違いなかったが、さすがに車の中では眠れなかったのだ。
妻の妊娠は非常に喜ばしい事だが、何だかピンとくるものがずっとなかったのは正直なところだった。
妊娠を告げられた日にも、そうなんだと、まるで他人事のようにに聞こえたのだ。
たしかに妊娠は女にとっても男にとっても一生を揺るがす一大事だとは認識はしていたけれど。

現実に妻のお腹が膨らみ出していく過程のなかで男は少しずつ認識を深めていくに違いない。

パトロールカーから降りたってきた警官がなぜ俺にだけ職務質問してきたのかは最初疑問だった。
駐車場には他にも数台停まっていたし、パトロールカーの登場に一斉にエンジンをかけたかと思うや、まるで蜘蛛の子どもが散らされるように逃げ出していったのだから、そちらの方が多いに問題じゃないかと思ったのだ。

しかしその疑問は間もなく解けた。
運転席側の車の窓を警官がノックしてきて、俺が開けたら警官がいちばんに言った言葉で察したのだ。
「何でこんな時間こんな場所に停車して一人でいるの?」と訊いてきたからだ。
それで他の車の中には複数の人間が乗っていたのかと。
そしてそれはきっと男女のカップルでいちゃついていたか、それ以上の行為をしていたのだろう。
しかし、それらを咎めなくて何で俺なんだろうか?

それにしてもお笑いだ。
同じ駐車場内で同時刻に、他の車のなかでは男女が睦み合っていたとは。それにまるで気がつかなかった自分自身にも嘲笑したい気持ちになった。

が、事態はそんな場合ではなかった。
警官は俺に犯罪者の匂いを嗅ぎ付けたのだ。
俺は疑いを晴らす為にここに至る詳細を説明した。

しかし
警官は二人共に?
鋭い眼光を崩さない

一応話は聞かせて貰ったけれど、「ハイそうですか」とは帰せないから免許証と身分証明書みたいなもの見せてくれない」
と言ってきた。「身体検査と車の中も確認させてもらけどいい?」
それを拒否したら余計疑われるし、下手をしたら署に連行されないとも限らないと俺は恐れを感じて素直に承諾した。
免許証を提示し社員証も見せた。身体検査をしてもらい車内も納得いくまでみて貰った。
警官が言った。「事情はあってもこんな時間こんな場所にいないで家に帰ってください。ここで先月に浮浪者がトラブル起こして殺される事件があったんですよ。。なんか車内のアベックと口論になったみたいで、若い男に暴行されたみたいなんだけど。目撃者は何人かいたんだけどまだ捕まってなくてさ」

俺はそれを聞かされて背筋が寒くなった

寒くなったのだ。


散文(批評随筆小説等) 思椎の森で化石になってしまった 散文編 Copyright こたきひろし 2019-12-08 10:30:58
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