化石のなかで眠る
こたきひろし

牛と豚の合挽き肉に玉葱の微塵切り
塩とブラックペッパーを適量 それにナツメックも適量
トマトケチャップと鶏卵を加えパン粉を入れる
それらの食材を手で混ぜて捏ねる

そのなかにどうやったら
愛情を練り込めるかなんて
考えた事もない
そんなのどうでもいい

さすがに朝食にハンバーグはないでしょ
昼飯か夕食のどっちかだよね

と言っても昼食は大概コンビニ弁当だし
手作りが食べられるのは夕飯だからな

「今夜は何が食べたい?」
妻に毎朝訊かれるけど
 何でもいいよ
とつい答えてしまうのは
出勤前でどうしても気持ちがバタバタしているからだ
「何でも良いって言われるのがいちばんに困るの」
そんな答えがいつも通り返ってくるから
夫は一応考える振りをして結果 解答を妻に委ねる
 君の作る物なら何でも良いよって
面倒くさげに夫は答える
妻はそんな夫に
「そんな無責任な事言わないで 素直に貴方が食べたい物を言ってよ?」

妻の質問に
 これと言って食べたい物はないけど 強いて言えばハンバーグかな今夜は
と答えを探して見つけた
「そう?分かった今夜はハンバーグにするね 愛情いっぱいの」とちょっと不満げに妻は口にした

 頼むよ
と夫が言ったら
「他には何がいい?」
と妻が訊いてきたから
 他は君に任せるよ
と言いながら
 朝からいつも垂れ流されているテレビ画面の時刻の数字に目をやった
 もうこんな時間か 俺いくから
と慌ただしく立ち上がり玄関まで歩くと
後からついてきて見送る妻の耳元に口を近づけて甘く囁いた
 今夜は何よりもいちばんに君を食べたいな



結婚して家庭を持ったら
そんなしあわせが当然やって来るものと
男はずっと夢想していたものだ

ずっとずっと切ないくらいに
一人ぼっちの暮らしのなかで
独居生活のまま
いつか化石のなかに眠ってしまわないかと
恐怖を覚えなから

その恐怖と痛みを抑えるクスリにしたくて
夢想したのだ

しかしそれはどこまでも現実には結びつかない

儚い蜃気楼
とても儚い蜃気楼だった
のだ


自由詩 化石のなかで眠る Copyright こたきひろし 2019-12-08 07:44:43
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