二〇一九年初冬
山人

 四日、私たちは不調の機械をだましだまし使いながら、なんとか山林のノルマ面積を整備した。午前中、少し遅くなったが終わらせたのだった。
 軽四のワンボックスのエンジンを掛け、ヒーターを最大にする。防水がかなり機能しなくなった合羽は水が入り、肘から手首までの衣服は濡れてしまっていた。
 枯葉と土と泥が入り混じった車内は雑然としていたが、汗もかかないためか悪臭はない。しかし、それにしても汚い車内だ。
 フロントガラスはだいぶ曇りが取れたが、まだ完全ではない。ゆっくりだが、林道を戻り始める。
 現場仕事は終わった。
 枯葉の上にいちめんに覆われた雪をグリップしながら、軽四ワゴンは長い林道を移動してゆく。
 途中、アンテナの跡だと聞く大きな広場に車を止め、弁当を広げる。まるで色彩の無い、茶色一色のおかずが白米の上を覆い、飲み物は香りのいい紅茶だった。
 汚れた車内の中で、美味いとは言えない弁当を食い、失意にまみれた広葉樹林と、落ちゆく雪を眺めていた。
 咀嚼の数ほど多くの事柄があり、それを認めながら体内に落とし込んでいく。この一年を冬鳥の群れが一気にさらいあげ、上空へと舞い上がらせた。

 五日、六日、雪は降り続け、朝一と昼頃、人力除雪に入った。車庫の片隅に埃をかぶった除雪器具を取り出し、雪をさらいこみ、特定の場所まで運び、棄てる。この単調な作業を進めていくと、次第に体は暖かくなり背中や胸が汗ばんでくるのを自覚する。それを何十回と繰り返すとようやく雪が除去され、いたるところにこびりついた、いやなおもいが剥がれ落ちてくる。
 定期的に訪れる建設業者の除雪車が、警告音と稼働音を響かせて集落の落胆を削り取ってゆく。それらを眺め、簡単な事務的な作業をしつつ、時とたわむれた。

 七日、朝、外は雪も降らず、少しばかりのときめきもあったがすぐに羽を失い、湿った雪の上に墜落している。行動を起こすべきことは存在するが、それは確固たるものでもなく、ただの無機質な存在でしかない。しばらく、その、「存在」を放牧しておくべきかということを考えている。
 朝食を終え、すでに二時間以上経ち、しかしまだ洗顔や投薬すらもしていない。それらを終えて日記を書くか。それが終わってからは、また何をするか考え、そのあとは別な場所へ行くための羽繕いでもするしかないのだろう。


散文(批評随筆小説等) 二〇一九年初冬 Copyright 山人 2019-12-07 09:09:38
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