自分の存在がやたらうざいと思えても
こたきひろし

餓鬼の頃
俺んちは貧乏で大家族だった

家はあばら家で年中すきま風が入ってきた
破れ障子とぼろぼろの木戸は閉めてもあまり意味がなかった
防犯の役目はしていなかった
もし夜中に何者かに襲われたら一家皆殺しにされても
何の不思議もないだろう

とは言っても
あの時代あの山間の寒村に点在していた家は
ほとんどが似たり寄ったりだった

一家は八人家族
祖母と両親と兄一人姉三人そして俺を含めて

家は五右衛門風呂
薪で焚いて沸かした
風呂場を囲う仕切りはなかったから

俺は祖母と母親と姉三人のすっぽんすっぼんを
よく目にしていた

父母は農作業が忙しくて
あまり子どもらにはかまってくれなかった

必然的にいちばん上の姉が母親がわりになってくれた
姉と俺は十歳年が離れていた

姉は風呂嫌いの俺をよく風呂場に連れていって
「ひろし汚いよ。お姉ちゃんが洗ってあげるからいっしょに入ろう」
と言って、嫌がる俺から強引に着衣と羞恥心を剥ぎ取って
頭髪や体を洗ってくれた

小さい内にはそれにも従っていたが
だんだんに俺も体は成長していってそうもいかなくなっていた
それでも変わりなく姉はいっしょに風呂に入ると言った

姉は姉で女の体になっていた
大人の体になっていた

姉はわが弟だからと油断しているに違いなかった
ある夜、
姉は言った
「ひろし。おちんちんに毛一本だけはえてるよ。いつの間にかだね。お姉ちゃんも気がつかなかった」
言われて俺も初めて知った
姉にはすでに大人と変わらず生えていたが

たった一本の俺の陰毛に姉は決断したように口にした
「ひろし。明日からはおまえ一人で風呂に入りな。もうお姉ちゃんはいっしょに入らないから」

とそう言った

母親よりもいとおしく
大好きだったお姉ちゃん

その時ほど
俺は成長していく自分の体を
うざい存在と思えた事はなかった

大人になんてなりたくはないと切に思えた

なのに体は日に日に成長していく
いつか性に目覚めていた
それは自然ではあるけれど
そしていつか
自慰を覚えた
射精するために

反面
マスターベーションしたあとは
言いようもなく空しくなって
そして後ろめたさを感じてしまった
同時にそんな行為にふけってしまう
自分の存在がやたら汚いと思えてならなかった

少年の時代

ああ
今はそんな自分が懐かしく
美しいと思えるほどまでに
年輪を重ねた

性と共に
人生はあるんだよ
性なくして
人生は
存在しないのさ

神様がくれた
快楽は
卑猥な麻薬




自由詩 自分の存在がやたらうざいと思えても Copyright こたきひろし 2019-12-07 08:14:53
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