真夜中はマシンガンのビートで
ホロウ・シカエルボク


もはや狂気が正気になっちまって、俺の日常はどす黒い憎悪と底無しの生への渇望の渦だ、時計の針が過ぎてゆく人生を切り刻む、零れ落ちた断面が冷たい床でべたりと嫌な音を立てたそばから腐敗臭を立て始め、毛羽立った感情を余計に逆撫でする、声無き咆哮が口を閉じたままの声を擦れさせ、たまに口を開けると轢死体の最後の呼吸のような音しか出ない、オーライ、どっちだって生きてられるものだよ、どっちでだって生きてられるものだ…どうせこの世の中には真っ当なものなんて存在しないんだ、そうだろ?薄っぺらい、お仕着せのイズムに寄りかかって安心してる連中なんざみんなキチガイさ―バラバラにされた譜面だ、散乱した音譜なんだよ、それがいけないと思ってしまうのは、まともな旋律だったことを思い出してしまうせいなんだ、いまとなっちゃそんなものは関係なくなったんだ、それが理解出来ない連中は最後まで狂ってしまう…まあ、もっとも、俺はこんな御託を並べて遊ぶことが出来るから、余計ややこしい袋小路に入り込んでいるって話もあるけどね―でもまあ、そんなことはどうでもいいんだ、「本当はこうだから」「本当はこうじゃないから」そんなこだわりやプライドが何の役に立つ?俺はこのままだよ、穏やかなキチガイさ、そうして生きてい居ることになんの不都合もないよ…不都合があるとすれば、自分の狂気を認められない連中にはそうかもしれないな、俺のようなものはべらべらと話すべきじゃないってことになってるだろ?たぶん、あいつらの中ではさ…でもそんなことどうでもいいんだ、そうしたことはまったくどうでもいいことなんだよ、俺は俺を掻き回すために生きてる、どこの誰にもその邪魔をする権利なんてないよ―年齢は人を大人にしたりしない、大人になったと錯覚させるだけのことさ…大人ってのは、精神的に出来上がった人間のことだろう…そんなものの定義を年齢で判断するなんて馬鹿なことだとは思わないか?周りを見ろよ、大人ぶった、もっともらしい口をきいてるやつほど醜態を晒してるってもんだぜ―俺を見なよ、俺は穏やかなキチガイだ、だけどそんなにみっともない真似はしたことがないぜ…寒さに震えあがるが、眠る前に出来ることはまだある、それはいつだって突発的にやって来る、そんな衝動に逆らっちゃいけない、それを抑え込んだままでいたらたぶん本当に取り返しのつかないところまで行ってしまうだろうさ…目はふたつのものを見る、見えるものと見えないものさ、その両方が見えないと駄目さ、それが出来ないやつが分かり易いカードだけを切り続けて得意になっているんだ、いいかい、物事は単純かもしれない、だけど、単純じゃないかもしれないと思う方が、ためになるってことは確かにある―すでに解答が用意されてるものを信じちゃいけない、すべてを自分の手で、思想で探し当てることだ、それが出来るなら頭がおかしいことなんか別に気にしなくていい…そんなこと、生きていくこととは何の関係もないことだ、そこは終着地点じゃない、それは死ぬことでしか有り得ない、いや、もしかしたら死の先に続くものがまだあるのかもしれない、「自分はこうだから」やかましい、たかだか一〇〇年足らずの人生で何が分かるっていうのかね、下らねえ悟りを開く暇があるならキーボードがひび割れるくらい曝け出してみたらどうなんだ、かっこつけてんじゃねえよ―語ることより先に来るもんが多過ぎると、昨夜食ったもんすら上手く伝えられない人間になっちまうぜ、自分を掻き回して、掻っ捌いて、皿の上に並べるんだ、ぐっちゃぐちゃに並べられたそれを、誰かが鷲掴みにして食ってくれるかもしれないぜ、俺は真夜中に大笑いする、なあ、晩飯には少し遅過ぎるんじゃないのか―言っただろ、だって俺、さっきまで寝ようとしていたんだぜ―そうさ、正しく眠るための何かが足りなかったんだ、足りないまま眠ろうとしていた、そのまま眠ってしまう時だってもちろんあるさ、だけど、でも、それじゃいけないときには必ず何かが待ったをかけてくる、首根っこを引っ掴んで、ここへ連れてくるのさ、そして俺は真っ白いワードの画面をあっという間に塗り潰して、真っ白い自分になってようやく寝床に潜り込むんだ、死体のように眠り込むおれが見る夢は、もう死んだ人間ばかりが現れてにやにや笑っている、今夜あたり俺はそいつらを殴り殺すかもしれないな、理由なんかないよ、あいつらは多分そうされることを期待して俺のところに姿を現すんだ―。


自由詩 真夜中はマシンガンのビートで Copyright ホロウ・シカエルボク 2019-11-22 00:47:44縦
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