ゼロから始まるモノは
こたきひろし

ゼロから始まるモノは何もない
と言う定説

一から始めなくてはならない

一夜の夢にあらわれた少女は
一糸纏わぬその身体を
幻想の寝台に横たえている

その乳房
その乳首
股間にはささやかな陰毛

男は見ている夢のなかで
「これは夢なのか?」

疑いを持っている

一から始めなくてはならない

男は恐る恐る
寝台のそばに歩み寄って
恐る恐る少女のそばに立って
その姿を見下ろした

はたして
一から始めてよいものか
と男は躊躇った

性夢は
男女を問わずにあらわれるに
違いない

それは恥ずべき事じゃない
自然な現象

男が少女の身体に手を触れると
そこからしろいはだが
儚く消え出して
みるみる内に全身が消え失せてしまった

或る朝
妻は私に告白した
「昨夜変な夢を見たわ」
どんな夢?
「言っていい?聞いても怒らない?」
怒らないから言ってみて
「知らない男に抱かれる夢を見たの」

そうなんだ
私は一言言って
そのあと黙ってしまった


自由詩 ゼロから始まるモノは Copyright こたきひろし 2019-11-19 07:29:16
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