幸福とは
墨晶

 
 
崖下の細道と市境を流れる川に挟まれた廃寺に隣接する三角形の土地は雑木林で、夏の間は気が付かなかったが、樹々の葉が落ち始めた最近、それらの幹それぞれに、なにやら薄茶色の掛け軸が揺れている。数年前から全裸男が徘徊していると通報がある地域であり、その廃寺もよく不審火が発生する。

オレンジ色の光と朽ち葉の匂いが充溢する林の中で、掛け軸を見て廻るが、概ね文字なのか、絵なのか、掠れて何が書いてあるか判らない。また、顔のわからない水着の女性のグラビアや、旧い新聞の切れ端が雑に貼られているものもあった。そのうち、奇妙な音が聴こえてきた。電子音のような、鳥の声のような。

液体が顔を伝うような気がして、「 汗か 」と思い額を拭うと、掌が血塗れだった。
 
 
 


自由詩 幸福とは Copyright 墨晶 2019-11-19 04:25:59
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