通り魔たち 5
春日線香

闇に飲まれる海を
歩いてくる人々がいる
靴を履かずに
埋立地から町へ
明かりへ







事故の影響で
ダイヤは一斉に狂った
側溝に流れ込む雨は
こんなはずではなかったと
地上を蔑んでいた







鳩が鳩を食っている
噴水はからからに枯れて
人の気配は久しくない
棚が倒されたコンビニの
自動ドアが執拗に開閉を繰り返す







一室は閉め切られたまま
大人の背丈ほどの雪だるまが
溶けずに佇んでいた
ちかちかと
蛍光灯が明滅している







取り壊された後でも
まだ建っている
住人もいる
水道は通っているが
金気が強いらしい







空中で分解する電波
強い電波、弱い電波
尻尾と目玉を持った
死んで間もない電波







てるてる坊主の影が
映っているのに
どこにも吊られていない
部屋は静かで
窓は固く閉ざされていた







壁にめりこんでいる男
胸のあたりで断ち切られ
頭が向こうに抜けている
スーツ姿
夜には発光する







耳まで裂けた口で
猫を食べる
きゅうりもかぼちゃも食べる
ああ見えて実は
落ちてきた天使なのだ







宙に浮かぶ片足の靴は
よく見ると糸で吊られ
静かに回転していた
餡子がぎっしりと詰まって
重そうだった







積荷を降ろして
トラックは去っていった
タイヤの跡には水が溜まり
それで化粧を直す
顔のない動物もいた







腕を広げた案山子のようで
案山子ではなかった
タイヤで平たく潰された
猫なのかもしれない







昼も夜も
野原で回っている室外機は
自分が幽霊であると
知りながら回る
回り続ける







折れた枝の先から
複数の白い紐が伸びて
うつろに宙を掻いていたが
鳥は見向きもしなかった
雲は素早く流れた







落ち葉の一枚一枚に
墨の文字が浮かび上がる
しゃがんでそれを読んでいた
透明な人が
轢かれて粉々になる







日差しを避けて
かたつむりが多く住む
雑木林の下生えに
点々と
手首が落ちている







敷き詰められた畳は
全て腐っていた
そこに住む家族は
ガスで死んだというので
声が少しおかしかった







川は地下深くを流れて
輝く五色の花々を運んだ
時に人がそれを得て
不死になることもあった







羽根と骨の塊になって
ゴミはよちよちと歩く
レールの上の光の反射
乾いた砂利が勢いよく
垂直に飛び跳ねて
静止している







もう長いこと
膝を丸めて埋められていた
人が起き上がって
雲の流れる空を眺める
そのすみれ色









自由詩 通り魔たち 5 Copyright 春日線香 2019-11-16 21:20:25縦
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