行き場の無い手紙
卯月とわ子

昨日、
貴方が遠いところへいってしまった事を知りました。
その事実は私の思考を過去へと連れていき、あの日の後悔を強く思い出す事に。
さようならの挨拶が出来なかった。あの時も今回も。
いつかは誰もがそこへ行くのだと分かっていても、
日常から切り離して考えたくなるのが心情でしょう。
わたしだってそうです。
でも、逃れられないものだという事も頭の隅で分かっています。
分かっています。だからこそ思うのです。
貴方がいくには早すぎる、と。
遅ければ良いというものでもないと分かっています。
が、突然の知らせはあまりにも悲しくわたしの心に染みつきました。
まだ陰ったまま、晴れる事が無いままわたしはここに立っています。
わたしが思い出す貴方はいつも笑顔でした。
今、貴方の事を思う時も貴方は笑っています。
曇りのない笑顔がわたしを余計に悲しませるのです。
貴方を忘れる事は無いでしょう。
心の陰りが徐々に晴れても、貴方はわたしの中で生きています。
輝かしい舞台に立っていた貴方をわたしは忘れません。

届く事の無い手紙をここに残しておきます。
きっと多くの人たちが貴方へ手紙を書いたでしょう。言葉を紡いだでしょう。
わたしもその中の一人です。
名前を持たない一人です。


自由詩 行き場の無い手紙 Copyright 卯月とわ子 2019-11-16 10:02:54
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