自分史(音楽事務所勤務時代 8 ー 新婚旅行)
日比津 開

 新婚旅行は、ウィーンに1週間ほど行った。
ほとんど音楽鑑賞旅行といった内容で、ウィ
ーン国立歌劇場でヴェルディの「椿姫」、
プッチーニの「蝶々夫人」、それからチャイ
コフスキーのバレエ「くるみ割り人形」を鑑
賞した。

 本場でのオペラ鑑賞は演目だけではなく、
劇場の雰囲気も楽しめた。彼女は赤のイブニ
ングドレス、僕はタキシードで出掛け、豪華
な歌劇場の中を歩き、楽しんだ。鑑賞した中
では、ソプラノのゲオルギューがヴィオレッ
タを演じた「椿姫」が最も感激した。

 このほか、ウィーン・フォルクスオパーで
は、ビゼーの「カルメン」を観たが、こちら
の劇場は文字通り庶民的な感じで、建物、座
席も古ぼけていたが、オペラは国立歌劇場と
同様に質が高く、楽しめた。オーケストラは
プラハ交響楽団の公演があることを知り、オ
ペラの公演のない日に当日券を求め、聴きに
行った。確か、メインプログラムはお国もの
のドヴォルザーク「新世界」だったと思う。
公演終了後、クロークに預けていたコート
を僕からではなく、近くにいた男性が彼女に
エスコートして着せたのには、ちょっとばつ
の悪い思いをした。


 音楽以外の楽しみは、ホテルのバイキング
形式の朝食でハム、ソーセージ、ベーコンが
盛り沢山で、日本のホテルでは考えられない
ほど種類が豊富で美味しかった。昼間はシュ
ーベルトやブラームスの墓地を散策したり、
有名な教会の内部を見学したりした。オペラ
のない日には、予定にはなかったリンツまで
行き、ウィーン・フィルのコンサートを聴こ
うとしたが、さすがにチケットは完売で無駄
足に終わった。

 しかし、ウィーン~リンツまでの列車で車
窓から広がるオーストリアの田園風景やリン
ツの街、ドナウ川の流れを見たり充実して過
ごせた。彼女は僕が突然、リンツまで行こう
と言い出したことに驚き心配したが、会話や
移動はなんとかなった。

 新婚旅行に行った年は、最も円高が進んで
いた頃で1ドルが確か90円を切っていたため、
旅行代金は非常に格安だった。オペラなどの
チケット代金のほうがずっと高いくらいで、
1週間に5公演を楽しむ新婚旅行というよりは
音楽鑑賞旅行となった。



散文(批評随筆小説等) 自分史(音楽事務所勤務時代 8 ー 新婚旅行) Copyright 日比津 開 2019-11-08 16:28:40
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