挽歌

干上がりかけた沢の縁
山椒魚は怒るまい
ペンケのダムもパンケの家も
知らずに不幸と泣くだろか
ただ生きるのみの今世に
祖父の語つた魚に逢へずとも

  謳歌せよと、
  忘れられ、た、猫柳の、袖、さやめく、
  在りし日々、咲いて、咲いて、

気取つた八重の浜梨は
迫る針から逃れまい
白樺が松に呑まれても
サイロがくもに喰はれても
根付いた土を恨まうか
祖母の歌つた花に逢へずとも

  木漏れ日を、抱き締めよと、
  駆け抜けた鼠、せせらぎ、眠る梟、サヨナラ、
  在りし日々、裂いて、裂いて、

  仏間に放たれた、塵、金色の、
  陽炎、
  薪ストーブ、生粉なまこ、焼きつ、け、
  あつい皮、を、
  剥ぎ取り食ひ散らした、
  在りし日に、
  淡々と、連なる、繻子、に、懐かれた、
  死、触れ、る、生ぬるい、肉、の、手触り、香り、
  燃やし、白骨の、残響、爆ぜる、肌に、赤い、
  深淵、
  ひしやげた硬貨、
  の、色形、忘れぬやう、
  灼けたアスファルトを踏み締める、
  裸足に、
  鹿の、
  角を蹴飛ばし、
  蕗のもとへ、

いつの日か
青い蛇のするやうに
ぬけがら置きに逝きませう


自由詩 挽歌 Copyright  2019-11-07 17:37:53
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