けものの夢
朧月夜
透き通った世界の境界には、透明な獣がいて、澄んだ夜を吠えている。明け方の明星を夢みて、夜明けの明けない空に遠吠えをする。透明な獣が夜空を嘆く時、そこには無限の連なりと重なりがあって、透明な獣を優しく包む。希望はあったのか、夢はあったのかと、獣は返り見ることをしない。ただ、生きとし生ける全ての者と同じに、透明な獣も眠りを眠り、目覚めを起きていた。失われた夢の中に落としてきたものはと、獣は掌を覗きこんで思い迷う。失われたものは夢の中に、夢そのものとして包まれている。思い出すのに遅すぎるということはないから、そっと優しく思い出すのが良い。透明な獣の夢の中に、澄んだ一つの答えが転がりこむ。哲学的な野心よりも、生きた心がそこにはあって、それを詩というなら、詩は哲学よりもなお生きている。透明な獣は掌を合せて、再び人という獣の皮を被ろうとするだろう。夢見ていた夢とは違う、生きていた命とは違う、生きた心を取り戻すために、透明な獣は、夢の中に置き去った夢を捨てるだろう。そうして、再び息吹を持つ時、透明な獣は透明な色さえも失い、灰色になる。夜空の中に己ではない星が落ちている。