月の満ち欠けにまつわる物陰
こたきひろし

ある日
どんな気持ちの迷いか
それとも突発的な事故と解釈するべきか
お年頃の二人の娘に
お父さんは童貞だよ

言ってしまった

すると上の娘が何ら怯む事なく
私達二人共、小学校の時に習ってしまったよ「コウノトリが赤ちゃんを運んでくるんじゃないって」

少しも動揺した様子も見せないで答えてから「どんなに少なくても二回はしてるわよね。私と妹の分は」

言ってのけた

その見事な切り返しに
父親は、我が子ながらあっぱれと心の内で拍手してしまったが

父親が本当に確かめたかったのはそこじゃなかった
本心は
彼氏はいるのか、いたとしてもどこまでの付きあいか、たとえ一線は越えたとしても赤ちゃんはできないようにちゃんと避妊してるのか
等の
父親として尽きない心配の種を吐き出したかったのだが
そこには怖くて立ち入れなかった

もし、その際の、言い方聞き方を間違えたらいっぺんに機嫌を損ねて、悪くすると軽蔑されてしまい
以後まともに口をきいてもらえなくなるキケンを孕んでいるのは容易に想像がついたからである

女のこは扱いがとても難しいのは痛いほど分かっていた
体は当然としてその心の構造は
異性としての父親にとって理解力の範囲外だったのだ


女のこは
満ちて欠けるをくりかえす月
美しき謎を写す鏡のように

男のこがむやみに近づくと
魔法は解けてしまい
正体をあばかれた
その仕返しに

微量の毒を
生涯かけて盛られつづける
かも
知れない

結婚とはそんな物語の課程と結末
に過ぎないのかも

まっこと
御愁傷様でした








自由詩 月の満ち欠けにまつわる物陰 Copyright こたきひろし 2019-11-06 00:11:38
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