夢現〇境界
ひだかたけし

坂の下は霊魂の溜まり場だった
降りて行ってはいけない と彼女に言われた

彼女は二十四の歳に逝ったままの若さだった
その代わりにある家を見て欲しいと言う
二階に八畳間が二つ在るのだけれど何か変なの と
僕は彼女に導かれるままその家まで付いて行った

到着してから
その家は僕が良く見知った空き家だと気付いた
ごく普通の木造家屋で
ただ新しいのか旧いのかよく分からない
妙につるんとした気配が印象的だった

二階には彼女の言う通り八畳間が二つ在った
僕たちは入り口に立って中を見回した
部屋には人の住んだ気配というものが全く無かった
二つの部屋には仕切りがなく間続きだった
天井が極端に低く薄暗さが空間全体を支配している
渦巻くような
いや実際
奥に向かい薄暗さが渦を巻いて〈闇〉となって生動していた

確かに異様だね 僕は彼女に言った
でしょう と彼女は頷いた

さっきの坂の下と此処は繋がっているのよ だから

彼女の声が遠くそう響き
その時にはもう彼女の姿は無かった

僕は部屋の中には入らずその家を後にした

自分はもうこの〈現〉に属していないのかもしれないな と思いながら




自由詩 夢現〇境界 Copyright ひだかたけし 2019-11-05 22:17:47縦
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