自分史(音楽事務所勤務時代 5 ー 天職)
日比津 開

 好きなクラシック音楽の世界の中で働ける
ようになり、仕事は楽しかった。担当するチ
ケット販促の分野では、社長ご夫妻が僕の提
案、アイデアをよく取り入れてくれたので、
非常にやりがいを感じ、この仕事が僕の天職
だと考えるようになった。

 仕事で一番嬉しかったのは、やはりコンサ
ート会場がお客様で埋まり、アーティストが
すばらしい演奏をし、鳴り止まぬくらいの拍
手があったときだった。自分が演奏し拍手を
受けるわけではないが、僕の役割は多くの方
に演奏会にきていただき、またクラシック音
楽ファンを少しでも増やしていくことにある
と考えるようになった。

 公演開催日はホールのチケットブースで当
日券の販売が主な仕事だが、そのほかにプロ
グラム、CDの販売の手伝い、サイン会の列の
整理をしたりした。手が空いているときは、
交代で演奏が聴け、非常に嬉しかった。もち
ろん、これは楽しみばかりでなく、アーティ
ストのことを良く知り、仕事に繋げていく意
味合いもあった。

 会社が招聘する一流アーティストの演奏を
数多く聴いたが、最も印象に残っているのは、
ピアノの女王と呼ばれたスペインのアリシア・
デ・ラローチャが神奈川県立音楽堂で開催し
たリサイタルになる。はじめで聴いたアルベ
ニスの曲などは、仕事中の短い時間の中でも
聴いていて非常に血が通った演奏で体が熱く
なってきたことを覚えている。

 またシノーポリ指揮フィルハーモニア管弦
楽団演奏のマーラーチクルスは、非番のとき
はチケットをもらい、全曲を聴けたのは本当
にラッキーだった。クラシック以外も別会社
にしたジャズ系の会社が招聘するチック・コ
リア、ジョージ・ウインストンの公演なども
招待券をもらい、ときどき聴きに行った。


散文(批評随筆小説等) 自分史(音楽事務所勤務時代 5 ー 天職) Copyright 日比津 開 2019-11-04 10:45:00
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