自分史(音楽事務所勤務時代 1 ー 入社)
日比津 開

 30歳のとき、業界紙の記者からクラシック、ジャズ
系の音楽事務所に転職した。クラシック音楽の特別な
知識があるわけでなく、応募しても見込みはないと
思っていが、意外にも採用され飛び上がるほど喜んだ。

 20歳の頃から在京オーケストラの定期会員になった
り、コンサート通いを頻繁にしていたが、まさかこの
僕が憧れの世界に入れるとはー たぶん、履歴書のほ
かにクラシック音楽をいかに愛しているかという内容
の文章を添えて応募者したことが、良かったのかも知
れない。

 入社してからわかったことだが、採用された会社は、
クラシック、ジャズの業界では有数の大手音楽事務所で
驚き、やる気がましたことを覚えている。
 四国愛媛県の松山出身の神原芳郎、美代子ご夫妻が
一代で築いた会社で、今では伝説となったピアニスト、
バイオリニスト、指揮者、歌手などを多数日本に招聘
していた。

 僕が入社した頃は、ちょうどイギリスの名門オーケス
トラの一つ、フィルハーモニア管弦楽団をジュゼッペ・
シノーポリ指揮でマーラーの交響曲全曲演奏会を開催
するという巨大な企画を行っていた。日本におけるマー
ラーチクルス、ブームの一翼を担っていた。

 そのほか、常時定期的に招聘していたアーティストに
は、ピアノのアシュケナージ、ラローチャ、チェロの
シュタルケル、マイスキー、バイオリンのシャハム、
クレーメル、団体ではイ・ムジチ合奏団などがあった。
後には世界最高峰のオーケストラ、アバド指揮のベル
リン・フィルハーモニー管弦楽団も招聘している。

 ジャズではMt.Fujiジャズ・フェスティバルの制作、
運営を手掛け、過去にはオールスター・ジャズ・メッ
センジャーなどの大物を招聘した実績があるが、僕の
入社する前に独立させ、別会社にしていた。

 よく言われるが、興行は水物で失敗のリスクが高い。
しかし、神原社長夫妻が築いた神原音楽事務所は無借
金経営の優良会社で、業界では梶本音楽事務所、ジャ
パン・アーツとともにクラシック音楽業界では大手の
一角を占めていた。



散文(批評随筆小説等) 自分史(音楽事務所勤務時代 1 ー 入社) Copyright 日比津 開 2019-11-02 17:57:58
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