下らない
新染因循


腑を抜かれた魚の目が街を睨めている
斜視の感情は月光の行先を知らないので
真ッ黒く塗りつぶされた日々を燃やせない
虫を嘔吐する街灯はこうべを垂れて
舌下に縫いつけられた言葉に耐える

不規則に分裂した卵胞のような住宅地で
食器で遊ぶしかなかった子供が怒鳴られる
味のしない飴玉をしきりに覗いて
水に溶けていく色とりどりの砂に見惚れて
気がつけば、黒々と濡れたように美しい、鴉

美しい、という言葉はスムージーのようだ
刃が回転するたびにきざまれるものは
垢ぎれた指と、擦りきれた毛布を編むひと
それらを裸婦という名のしたに隠して
ガラスのコップを月光の色に磨くひと

つぎの朝、側溝はてらてらと七色に黒ずみ
ゴミ袋はおのれの姿に耐えかねて
虹の向こうへと旅立ってしまった
鴉と片目のつぶれた猫が魚の骨を取り合う側で
まだ食べられる野菜に蛆がたかっている

(下らないことだ)


自由詩 下らない Copyright 新染因循 2019-10-29 00:19:47縦
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