栗への讃歌
帆場蔵人

課題詩・秋に再挑戦
『栗への讃歌』

青い雲丹のようであった
トゲトゲが今やえび茶色に
染まり機は熟したと落ち始めた

栗よ、お前は縄文の昔から
人びとの口を楽しませ、飢えから
救ってきたそうではないか

そんなお前を足で踏みつけ実を
取り出す私たちを許してほしい

私は私の先祖たちがしてきた事を
繰り返しているのだ、お前のその
えび茶色は実に食欲に火をつける
マルーンとも言うが、マロンには
相応しい色味ではなかろうか

縄文に生きた人々は
お前を生で食べたという
しかし、私たちは
お前たちと共存するうちに
甘栗、栗飯、栗きんとん、と
絶え間なくお前たちを
美味しく頂こうと
励んできたのだ

祖母が口をひらく
昔、偉いお坊さんが
念仏の礼にもらった
焼き栗を地に蒔いた
その栗は一年に三度花咲き
三度実がなるのだという
夏から秋にかけて
三度栗はたくさんの
恵みを里にもたらしてきた

祖母が里の秋を歌う声が
里山に響き渡る、南方に
出征した父の帰りを待ちながら
栗の実を煮ていた親子は
もう母はなく子は老いて
栗を拾っている

遥か昔から
繰り返されてきた
その動作を真似て
孫も栗を拾う

三度と言わず何度でも
栗よ、これからも人はお前を
拾い続けるのだ


自由詩 栗への讃歌 Copyright 帆場蔵人 2019-10-27 23:35:02
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