カルメン 第3幕への間奏曲
日比津 開

(オペラ全幕を観なくとも
この3分足らずの間奏曲を聴けば
一つの物語を創作できる)

哀愁に満ちたフルートの音色が
どこからか聞こえてくる
波乱万丈の生き様の中で
訪れた束の間の休息
夜ひとりとなって荒れ野から
山々を遠く越えたところにいる
愛しいあの人を思う

フルートが奏でる旋律に共鳴し
涙が溢れ、止まらない
争いに血にまみれ
救いようのない私だけれど
いまこの瞬間だけは
汚れを落とし、清らかになれる
幸せだったあの頃を思い出しながらー

第3幕で過酷な運命が
訪れるのは、もうわかっている
たぶん、この間奏曲を
聴いている間だけが
美しい世界にいられる最後となる

決闘を促す勇ましく
華やかな前奏曲が鳴り響いたら
もう哀愁は捨てなければならない
それまでは、この短い間奏曲に
涙するのを誰も邪魔しないでほしい

ー 終幕、死の前のひとときに



自由詩 カルメン 第3幕への間奏曲 Copyright 日比津 開 2019-10-24 12:49:24
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