浮き世の値(あたい)
日比津 開

忠臣蔵のドラマで大石内蔵助が
京都島原の遊郭で
『浮き世の値、三千両』と
歌い囃され、躍る場面があった

上級武士の大石内蔵助の値が
三千両だとしたら
僕の浮き世の値は
どのくらいになるだろう?

多分十分の一にも満たないか?
大石は討ち入りを前にして豪遊し
恐らくこの世の未練を捨てた

僕の死期はまだ定まっておらず、
たとえ、死期が迫っても
豪遊などはまったく考えない

ただ好きな音楽を聴くこと
まだ行ったことがない名所旧跡の
幾つかを訪ねること
それと休みの日に好きな料理を
食べに行くこと
それから、これまでの人生であった
喜びや悲しみ、思い出を
詩やエッセイに書き残すこと

これらのことができる最小限の
お金があれば、それで良い
いくら位が必要だろうか?
もしかしたら、却ってかなり贅沢な
望みになっているかも知れない

結局、浮き世の値をはじき出すことは
僕にはできそうもない
ただ残りの人生は些末に捕らわれず
思いのままに生きていく
それができたら、僕も浮き世
この世に未練を残さず去っていける



自由詩 浮き世の値(あたい) Copyright 日比津 開 2019-10-21 03:37:13
notebook Home 戻る  過去 未来