楽園の反対側
こたきひろし

道幅が狭い。車同士の行き違いが不可能。人と二輪車は侵入禁止になってない。

オーナーが道楽でやってるとしか思えないガソリンスタンド。その横から入っていく路の両側にはギリギリまで家々が建ち並んでいた。その立ち込めている雑然とした空気を切り裂くように、途中には古くからある産婦人科医院。その先には真新しい歯科医院があった。両方とも駐車場は数台しかとまれないから狭い感じは拭えない。

女なら誰でもそうに違いないとは思うけど、個人差はあるらしい。あたしの場合は生理痛が酷くて、最近は不安を感じてる。もしかしたら変な病気にかかってないかって。
勿論こんなこと、父親には相談出来ないから母親に言ってみた。
同じ家族とは言え、性差の違いは壁になってしまう。
当然あたしは父親の前では着替えたりしないし、スカート履いたときなんか変なところ見られないように気をつけている。

母親に相談したら
「心配なら病院に行ってみたら」
と言われた。
「病院?産婦人科だよね。見られるでしょ?嫌だな」
「見られるのは仕方ないわよ。あんただって結婚して妊娠したら、お医者さんにしっかり見られるわよ。おかあさんだってみられたんだから、恥ずかしいなんて言ってられないわよ」
と母親は言った。
「それじゃ、あんたが産まれる時にお世話になった所へ行ってみたら。おかあさんの時はお爺ちゃん先生だったけど、今はその娘さんに代わったらしいから」
「病院では色々聞かれるよね?」
不安な思いで母親に尋ねた。
「聞かれたら困るような事あるの?何かしらね?」
「たとえば経験あるのかとかさ」
あたしは思いきって言った。
「経験って?」
母親は聞き、直ぐに気がついて
「あの事ね。あんた彼氏いるんだし、長く付き合ってるんだから、あって当然ないほうが変よね」
「正直に答えればいいじゃない」
と言った。母親は続けて
「あんた避妊だけはちゃんとしなよ。結婚してからならともかく、泣きをみるのは女なんだからね」
と、そこは語気を強めた。

そして父親は何も知らないままに、それから間もなくあたしは母親と一緒にガソリンスタンドの横から入る一方通行路に入って行った


自由詩 楽園の反対側 Copyright こたきひろし 2019-10-15 07:32:59
notebook Home 戻る  過去 未来