サヨナラの詰め合わせ
こたきひろし

男の方から別れを言い出したから
最後に焼き肉奢ってと女は言った

五年ぐらい付き合ったから
お互い噛み飽きたチュウインガムみたいに
なってたのかもしれない

会うたびに話してるのは
女の方ばかりになっていた

男はほとんど会話がなくて
それでもお互い惰性で繋がっていた

お互い欲求が溜まると
お互いがお互いの身体を
欲求の吐け口にはしていた
そんなときだけは
愛してるとか
何度も口にしたけど

なのにどうして
その夜は男の方からよく喋ったんだろう
女は終始無口で
肉を焼き食べていたのに

そして
男は泣き出したのだ
声を出して

女は吃驚して周囲を見回してしまった
花金の夜だったから
店内は満席で
それぞれ盛り上がり
誰も気にとめている様子は見受けられなかった

女は食べるのをやめた
「どうしたの?別れるのやめにしたくなったの?」
訊いてみた
「決心は変わらないよ」
男はまるで嘘のように泣くのをやめて
答えた
「そっ」
女は一言声に出してまた食べ出した

何だか男が女々しくて態度が不明だ

女は思った

二人は店を出て最後の別れを口にした

それからそれぞれの車に乗って駐車場から出ていった

別れ話がなければ1台で来たのに
そして夜の中へ二人で消えて行ったのに

その夜
娘は家に帰るなり
わっと泣き出したのだ
父親も家族も訳が分からずおろおろしてしてしまうばかりだった


自由詩 サヨナラの詰め合わせ Copyright こたきひろし 2019-10-14 06:32:38
notebook Home 戻る  過去 未来