レモンがなる頃に
帆場蔵人

さて、秋か
そろそろ秋か
まだ夏か、と
迷う、日に

レモンが採れた、と
走る声あり、爽やかな
気配に夏が背を向けて
すれ違いに部屋を
出て行きました

まだそこかしこにいる
夏の同胞たちと共に
仕舞われる風鈴の音色を
足音に歩みさります

さて、秋だ
そろそろ秋だ
もう、秋だ

レモンが採れました、と便箋に
ペンを走らせる、秋日に

夏の日々を奪われた
庭木が夏の屍たちと
庭の片隅で呟きます

れもんが、とれました
れもん、が、とれました

台所の小窓から
流れ込む呟きを
便箋に書きつけ

レモンが採れました、と
封筒に閉じ込めて送る
青いレモンを蜂蜜に漬けて
手紙が届く頃に来る人と
夏の育てた果実をすっかり
秋ですね、と味わう頃に

釣瓶が落ちるようにすとん、と
秋の暮れがやってくるのです


自由詩 レモンがなる頃に Copyright 帆場蔵人 2019-10-13 20:14:55縦
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