樹木の声〇森の思考(改訂)
ひだかたけし

[やあ]
[なんだ?]

森はもう
こんなに涼やかに
静まり返っていたのか

[なあ]
[なんだ?]

此処に来ると、
君たち樹木の我慢強い無言の意識を感じるんだよ
僕の脳裡にはね、
ここいらを駆け回っていた
子供たちの声が響いて
時折どうしようもなく切なくなるけれど
君のように此処を住家に生きられたら
なんて思ったりもするのさ

ほら、
梢の先の青い天蓋に
僕の思考が全く独立に
漂い出すのが見えるかい?

[ふん!つまらん]
[どうしたんだい?]

そんだけ抱えた欲望やら哀しみが、あんた
ちょいと鬱陶しくなっただけだろ
忍耐も欲望も物もこの世界にある総てが
あの青い天蓋から降って来る
俺たちはその意志に従って生きているだけさ
この世界は只の巨大な鏡に過ぎない
あんたはその鏡に映っているものを
自分の物と思っているだけなんだよ
総て自分の物にできるって錯覚してね
いずれにしろあんたは先に進むしかない
先に進んで行って俺達のこの受苦を取り払うんだ
だってあんた達が俺達をこうして取り残していったんだからね
俺達はあんた達であんた達は俺達なんだ


森は相変わらず涼やかに静まり返り
その沈黙は、
二度とヒビキを発さなかった。














自由詩 樹木の声〇森の思考(改訂) Copyright ひだかたけし 2019-10-10 22:08:32縦
notebook Home 戻る  過去 未来