売り切れたままの心
丘白月


ずっと長いあいだ
売り切れたままの心

庭におりれば
ニシキギの実が
風の小径でささやく
歌が小舟で天に去ったと

檀紙のしわをなぞれば
懐かしい言葉が幽霊のよう

苔むした石段を照らす灯籠で
あなたの手をとった夜も懐かしく
季節はずれのお雛さまは
もういいでしょうと歌を催促する

何かを失くしたようで
ずっと探してた
思い出せないくらい過去のこと

私の歌を聞いてくれたのは
何処の国のお姫様だったのか
こちらへおいでと言ってくれたのは
桃の節句の歌を差し上げた夜

小さな魂はどうして
星の標本の一つになったのか

売り切れたままの心
夜空の蔵から降ろしてこようか




自由詩 売り切れたままの心 Copyright 丘白月 2019-10-10 21:56:02
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