ファタジェトジュ
後期


きみとぼくは警察に追われている
ぼくは強盗をしたらしい
きみはその手引きをしたらしい
派手なカーチェイスがあり
奇跡的な突破があり
きみとぼくは南国の
テーマパークにどうにか
辿り着いた


ぼくらには
似つかわしくない
豪勢な部屋が用意されている
きみをお湯で戻し
人並みに近づける
でも、ぼくはダメサァ
奇跡的な突破で
右半分がぼくには無いみたい
左だけでふと見上げると
天井にポッカリ穴がある
先ほどからけたたましく
ドアを蹴破ろうと
数人のマフィアが喚いていて
左だけだけれど
脱出できると歓喜した
自分が、思わず躍り
上がっている姿が
まるで猿の様でしたよ
と後日、メールで克明に
描写される。しかし
それは、枝ぶりの見事な
枯れ木の素描であり、猿は数匹
押し黙ったまま
今にも折れそうな枝枝に腰をかけ
雨脚が、駆け抜けるのを
じっと耐え忍んでいる
輪郭線の影だった。
その影は、いま見上げている
天井の穴のようでもあった
と後日、メールで
返信をした。
どうりで日が暮れ始めると
君がやたらに僕の部屋に現れては
木炭のような暗さの中に消えて逝く
電灯をつけると
君は僕の目の前にパッといて
すぐに消して、朝日が昇るまで
僕は直立したまま枯れ木のように
左だけで、佇んでいなければならなかった
僕はやさしい君の目の中
右があるように直立している
もはや止まり木の僕は
さまざまな生き物の
いっときの安息の時間となり
君の時計の中に音も忘れて
流れながら
同じ事を繰り返す宿命を
機能美として愛でる
職人の眼差しで
うっとりしている。
まるで今
僕が見上げる
天井の穴のように
そっと猿が覗いて
いる穴、血が滴る
一皿の美味でも
あるかのように
グーッと腹がなる
涎がじんわり
溢れてくる
愛と欲望が混ざり合う
淫靡な粘液を
左だけで
嚥下する
その痛みと悦楽
が、ゆっくり
堕ちて逝く

「はしたなかったわ、、」
友達の友達が
翌朝
メールをくれたのだ
天井から外へ出ると
生きた心地がしないくらい
活き活きとした
猿に囲まれ
パッと
光が消えた

もうすっかり
肉つきを取り戻した
ふやけ切ったきみが
南国で覚えた言語で
挨拶してくれる
「ファタジェトジュ」
再生と再会を併せ持った
美しい音の連続だ!
と、ぼくは勝手に
喜び、踊り
左さえも
失ったのだった。


自由詩 ファタジェトジュ Copyright 後期 2019-10-07 08:24:08
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