巡礼
こたきひろし

私は一千九百五十五年の生まれです

歴史の示す通り
十年前の四十五年に世界大戦が終結していますね

この国は
ポツダム宣言を受諾して
敗戦を向かえました

学校で教わったよね

もし
一億総玉砕なんかされてたら
私はこれを書けてません

父親は戦争に招集されて
無事に生還しました

戦死してたら
私はこれを書けてません

しかし
父親の弟は
南方の島で死にました

兄と弟の運命は
二つに分かれました

私はその運命の分かれ目から
運良く零れ落ちたしだいです

そうでなかったら
私はこれを書けてません

子供の頃
私が生まれて育った所には
まだまだ戦争の爪のあとが残っていました

東京から疎開してきた家族が
帰れないままになっていました

戦争で片腕と片方の眼球をなくして
すっかり生きる気力をなくしてしまった
男の人もいました

食料不足でした
砂糖は貴重品でなかなか手に入りませんでした
かわりはサッカリンでした

私は田んぼや畑の草むらから
スカンボなんかで空腹を誤魔化してました


決められた曜日ごとに
点在していた農家を歩いて回る親子がいました

二人は無償でしあわせを配って歩いてました
でも
その姿はみすぼらしく汚いものを着ていました

だから
住人たちは不憫に思い
食べ物や僅かな小銭を
施してあげました

そんな親子を子供だった私は
しあわせを配って歩く
巡礼じゃないか
と思っていました


自由詩 巡礼 Copyright こたきひろし 2019-10-06 09:47:43
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