涎が出てきそうだ
こたきひろし

男は枯れない
枯れてたまるか

父親は豪語していた
親戚が集まる宴会で
「俺は七十になる今も現役だ」
俺は母親をそっと盗み見た
顔が紅潮している
幾ら酒が回っているからって
人前で、まして子供らのいるところで
言う事か

五人も子供作ったんだから父親の男性機能は万全だったんだろう
それは間違いななく俺にも遺伝している

まだ独身だった頃 俺は。父親によく言われた
「お前は何の取り柄もない男だが、彼処だけは立派だ。幾ら刀が立派でも、それを納める鞘が必要だ。男と女は刀と鞘の関係なんだよ。だけど立派な刀だけでは鞘は付いてこないぞ。鞘は鞘なりに刀を選ぶからな。鞘にも胃袋はあるから食わせてやらなければならないし、着せてもやらなければならない。当然、住む所も必要だ。それが満足にできなければ、刀は危ない刃物のまんまでいるしかない。
運よく鞘が手に入れば、鞘は刀を産むし、鞘自体も産んでくれる。その為には汗水垂らして働け。男と人間を磨け。辛抱と努力以外にないぞ。これと言って取り柄もなく、見栄えしない男なんだからよ」

それを聞いたら、涙が止まらなくなっていた
良いこと言うなぁ。くそ親父。

俺は枯れない
枯れてたまるか
一人前に鞘を見つけるまで
幸い男性機能はバッチリだった

男性機能だけは




自由詩 涎が出てきそうだ Copyright こたきひろし 2019-10-03 08:06:40
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