ぜんぜん面白くない
こたきひろし

道端に彼岸花が咲いている
家の近くの細い道に

道端に曼珠沙華が花を咲かせている
家の近くの畑と畑に挟まれながら通り抜けてく農道に
車一台やっと通れる道に

工場の屋根の煙突が
白い煙りを吐いていた

目が痛い
鼻を突いてくる変な匂い

工場の隣の物流センターの屋外で
私は煙突の煙をその匂いを嗅いでいる

私は屋外で午前八時から十七時まで働いている
一人作業に明け暮れているパートタイマーだ

物流センター内の道路には
ひっきりなしにトラックが出入りしている

食品や飲料水やお酒等が
トラックで運ばれてくる

運ばれてきた荷物は
スーパーマーケットや小売店の注文に応じて店舗ごとに仕分けされトラックで運ばれていく

倉庫内はいつも大量の段ボール箱と
それをピッキングする大勢の作業員がいた

社員は少数で
その大半は派遣と主婦のパートタイマーだ

私は定年退職後の再就職で採用された
面接の時に 息子程の幹部社員に条件付きで採用された
「倉庫内の仕事はさせられない。外でパレット整理でよかったら使ってあげるよ。そのかわり雨風、暑さ寒さに晒されるけど、それでもよかったら」
私は定年前は工場内でフォークマンをしていた
トラックへの荷積みと荷下ろしをしていた
その経験を買われて面接させて貰っていた
否も応もなかった 選択肢はない このチャンスを不意にしたらもはや就職先はない 家族は路頭に迷うし 間違いなく家は失うだろう その先には人生の 最悪のストーリーが待ち受けているに違いなかった
その時の私の心中は、上から目線の若造に土下座をしてもかまわない心情だった

その日から三年半近くがたっていた
年齢を重ねるばかりのこの私に 作業はキツさを増すばかりだ

猛暑でも極寒でも耐えに耐えた
台風の日も大雪の日も仕事場から逃げる訳にはいかなかった

老後破産の現実と紙一重のところで歯を食い縛った
まだ死んでしまう余裕はない
妻と我が子に負の遺産を残す訳にはいかない

負けられないのだ 闘わなければならないのだ

こんなの文字にしても
ぜんぜん面白くない

詩としては評価される訳がない

ぜんぜん面白くないから

リアル過ぎて笑って貰えないだろう
リアル過ぎて涙も頂戴できないだろう

オッサンの悲痛な叫びは
聞きたくないだろうから

読み手は芸術を求めてさ迷っているんだからさ

車で通勤する毎日
家の近くの畑と畑の間の細い道
片側の畑が切れると土手があらわれて 雑草が鬱蒼と生い茂っていた
土手から車が転落しかねないぎりぎりの幅だった
何だか私の人生を暗示している

そこは坂になっていた
すぐ先に左側に登る急勾配の道があって
四軒の建て売り住宅の共有になっていた

道は四軒の家の駐車場にそれぞれ繋がっていて
私の家と隣の家で道は行きどまっている

そこまで辿り着く途中の雑草を混じって
所々
彼岸花が咲いている
別名曼珠沙華が咲いていた

この胸の中が切り裂かれるほどに
赤く赤く咲いているのだ



自由詩 ぜんぜん面白くない Copyright こたきひろし 2019-10-03 06:48:05
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