女と鳥
la_feminite_nue(死に巫女)

 もうときどきしか、空からは降りてこない鳥。鳴き声すら、聞こえない高さに。舞いあがり、ゆくてに消えて。ねえ、わたしの持っていた鳥かごが、気にいらなかったのね。ねえ、わたしの用意した巣箱が、気にいらなかったのね。ねえ、わたしの家のちかくの梢が、気にいらなかったのね。あなたは、自由でいたかったのね。自由に羽ばたきたかったのね。自由に歌声をひびかせたかったのね。自由に空とひとつになりたかったのね。いま、あなたは風、いま、あなたは空。わたしは、だんだん畑の百姓娘。この地上から、空をみあげる。あなたを吸いこんでしまった空を。ときどきは空から降りてきて。そうしたらわたし、星を受けとめるようにあなたのことを受けとめる。月を受けとめるようにあなたのことを受けとめる。こころを受けとめるように、囀りを受けとめる。キャベツ畑から、もんしろちょうではなくって、その卵をもちかえって、あたためる。そうすれば、やがて翔びたつ蝶が、きっとあなたのもとへとゆくでしょう。そうしたら、わたしのかわりにあなたはいっしょに羽ばたいて。蝶といっしょになって、虹をかけて。じぐざぐの軌線をえがいて、あなたが降りてくるとき、わたしは祝福の歌だけをたずさえて、こころのすべてを裸にして、あなたを身にまとうように受けいれるように……、雨。

 もうときどきしか、空からは降りてこない鳥よ。
 

[ジョアン・ミロのイメージによせて]


自由詩 女と鳥 Copyright la_feminite_nue(死に巫女) 2019-09-30 22:17:18
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