カシニョールの庭
la_feminite_nue(死に巫女)

 深緑の庭園で、わたしは薔薇をつんだの。裸のおんなのひとがこちらを見ていたけれど、わたしは気にならなかった。なぜ? どうして? 「あの人は服を着ていない」って、ぽつりとつぶやいてから、藤棚の小道をかける。空がふかく、ふかく、青く澄んで、もしその扉をひらいたら、水色になるんだろうって、想えた。そう、パンドラの箱。裸のおんなのひとは、ゆっくりと微笑みではないような笑いを笑っていて、あれは画家のひとに媚びているんだろうって、感じる。だって、口紅はぬっているもん。乳母車をおしたお母さんが、あかるい日ざしをいっぱいにあびて、もうすこし赤ちゃんのうえに覆いをかけなきゃだめじゃない。それが、ちょっと心配。噴水からほとばしる水しぶきが、その足もとにちいさな静寂をつくりだしていた。絵筆をもった、あの人は、おんなのひとのネックレスにだけ、気をとられている。あれを、どうやったらうばえるのかなって、少年みたいに考えこみながら。……あ、思い出したけれど、わたし、お姉さんがとばしてしまった帽子をつかまえて、古代の生き残りの鳩を手渡すように、それをあのひとにあげるんだった……。高層アパートが、道をわたった向こうの通りで、建てられている。かんかんと杭をうつ槌の音が聞こえる。ギターが、とおくのほうで鳴ってる。あれは、エレキ。


[カシニョールのイメージによせて]


自由詩 カシニョールの庭 Copyright la_feminite_nue(死に巫女) 2019-09-30 22:16:25
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