雲をこえて
la_feminite_nue(死に巫女)

貴女のはげしい想いを、
 わたしのなかにおとしてください。
 
わたしのなかできえていった、
 なにものかがふたたび息吹をもつように。
 
貴女の大人らしく澄んだひとみから、
 するどいあぎとのさきをつたって、
 
しなう枝が小鳥のはばたきとともに、
 空をうつように、まっすぐに天へとむかって。
 
とおくの大海原では、死に絶えたにんぎょも、
 心の池の中でなら、命をもつのでしょう?
 
ヒースのしげみ、剥き出しの小岩、
 アベ・マリアをかなでる、教会とその鐘、
 
鈴を、ならしながらゆく馬車、
 わだちを踏んで遊ぶこどもたち、
 
雪のふる夜には、雪にとざされる窓、
 あかりの消された寝室には、……細く寝息をたてて。
 
気づかれぬままに、捨て去られるなら、
 神よ、どうか、その応えをわたしに与えて。
 
舞台や劇場なんて、いらない、
 しずかな繰り返しの日々のなかに、
 
貴女の想いのはげしさとともに、
 わたしを縛る、いくばくかの鎖をもとめて、
 
おおきな声で、もしもさけぶことができるのなら、
 そうしましょう、それがかなわないのなら、
 
銀杏の散りしく秋、躑躅たちが咲きほこる春、
 ふと目にとまる心映えのなかに、
 
ちいさなささやきの歌を。
 魂をしずめる、かすかな霊の靴音を。
 
はばたき、昇華する天使の羽根を。
 貴女のながした、幾粒かの涙のような──
 
 
[ エミリー・ブロンテのイメージによせて。 ]


自由詩 雲をこえて Copyright la_feminite_nue(死に巫女) 2019-09-20 16:20:11
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