コンビニのレジで
こたきひろし

コンビニのレジで
その人は買い物の会計をしてもらいながら
周囲にわからないようにして
店員の女のこに
小さく折り畳んだ紙を渡した
という

女のこは一瞬困惑した表情をしたけれど
直ぐに空気を察してくれて
着衣していた制服のボケットに
素早くそれを隠してくれた
という

そして何事もなく
動揺する様子も見せず
会計をすませてくれた
という

 突然で申し訳ありません。以前から貴女の事が気になって気になって仕方ありませんでした。
 どうにもこうにも気持ちの抑えがきかなくなってしまいました。迷惑は承知の上で手紙を書いて渡しま  す。毎朝ここへ来る度に貴女のやさしい笑顔に心が癒されます。いつも明るい「いらしゃいませ」の声が
 胸に響きます。
 でも、誤解しないで下さい。この手紙をきっかけに何かを期待してる訳ではありません。
 けして期待している訳ではありませんから安心して下さい。

その後
その人の手紙はその人の密かな期待を裏切って何事も起こしてはくれなかった

なぜなら
その人が勇気を奮い立てて渡した手紙は読まれる事なくコンビニ内のゴミ入れに棄てられたのだから



家族の団らん
娘が言った
「今日ね、コンビニのバイト中にお客さんから変な紙を渡された」
「男の人?何?ラブレターか何か?」
母親が聞いた
「男の人だよ。ラブレターかな?読まないでゴミ箱に棄てちゃった。怖いし気持ち悪いし」
「それがいいわ。それでいいわ。お前可愛いいから、気をつけなさいよ」
と母親が言った
すると父親が口を挟む
「悪い男が沢山いるから騙されないようにな」
と釘をさす


言った父親だって若い頃は、悪い男だったかもしれないのにさ


自由詩 コンビニのレジで Copyright こたきひろし 2019-09-20 06:28:43
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