別れの歌
メープルコート


 目覚めると、先ほどの光景が記憶の片隅に消えてゆく。
 天井に向かって手を伸ばす。幸せな記憶を逃がさないように。
 それはするりと僕の手をすり抜けて記憶の彼方に消えてしまう。
 もう無理だよ。君を捕らえられない。

 君はもう僕のものではなく、僕ももう君のものではないのかな。
 胸を薔薇の棘で刺されたような痛み。
 逃げても逃げてもお前は狙いを定めて。
 もう僕にどうしろと言うんだ。

 あの頃の海は広大だった。
 あの頃の山は雄大だった。
 あの頃の秋は今はセピア色に染まっている。

 悲しみでは涙は出ない。
 さみしさも消え失せた。
 忘却の泉は今もまだあの山の麓に一人佇んでいるようだ。


自由詩 別れの歌 Copyright メープルコート 2019-09-20 01:03:11
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