まねごと――やすらかに老いる町
ただのみきや

翅を欠く揚羽と並び歩く道白磁と見紛う骨の白さ


すずやかな朝にまどろむ娘たち夏の火照りを蓄えたまま


安全も安心も不安あっての約束手形不渡りもある

今朝はまだ世間の目には止まらない明日の事件の主人公たち

嵌らないパズルのピース無理に嵌め不明不安を和らげながら

解明し分類すれば皆の腑に落ちる知見者識者のつとめ

事実とはかたを持たないのっぺらぼう好まれるのは理解しやすさ


澄み切った諦念の青さ結び解ける夢を遠く運び去り

やすらぎは白刃の心に映る空願い祈りの届かぬ所


足跡も指紋も残さず奪い取る盗癖にも似た物忘れ


電柱に身体からだもたれて息切らす老婦の着物日差しに褪せて

紫の裳裾に覗く足袋の白仏間の祖母の匂いを思う


かけ出した幼児を追って母叫ぶ坂で止まれず顔から転び

泣きじゃくる声顔すべてが愛おしいカッカと燃えるつぶらな命


花を見るその目が蜂に乗り移り秋桜揺らす風の睦言

来る雨の匂いに迷う羽蟻たち綿毛のように風にころげて

雨は打つすべて楽器に変えながら譜面は黒く塗りつぶされる


縋る手も祈る手すらも老いたなら神仏の耳また遠くなり

蜘蛛の子を哀れと思い捨て置けば天井四隅いつしか霞む


重ねても厚くも濃くもならぬ影ことばは心の影法師か




             《まねごと――やすらかに老いる町》








短歌 まねごと――やすらかに老いる町 Copyright ただのみきや 2019-09-07 14:34:24
notebook Home 戻る  過去 未来