ブルーな歌がブルースというわけではない
秋葉竹


持ちきれないほどの
暖かい気持ちが
なんどもなんども老いたミュージシャンの胸を
叩き割ろうとしたから
とても遠いむかしのような
白い霧の朝のニュースを止めてでも
真空管ラジオに乗せて
グッバイ マイ オールドフレンド
というノスタルジックな新曲を
流し続けるのだこの街では

振り返って、歌ってみて?

うまれてきたことが
失敗だったという
幻滅すべき真実を
知りたくはなかったのに
悪役になんかかたくなにでもけっして
なりたくなかったけっしてたどり着けない
彼方のほこりっぽい街では
閑古鳥が鳴く映画館で
お涙ちょうだいラブロマンスが
上映されているらしい

振り返って、歌ってみて?

主役を演じるのは
かつてクスリで捕まった
哀しげな笑顔が似合う
あの名女優なのだろうか
あゝ、名前は失念して申し訳ない

吹く風さみしく、砂ぼこりをあげて

そんなブルーな想いが
歌になって風へ還る

振り返って、歌ってみて?

あるいは、
繰り返して、歌ってみて?

その風をかわいたブルースと呼んで
べつに間違ってはいないと思う夜は寒い。





自由詩 ブルーな歌がブルースというわけではない Copyright 秋葉竹 2019-09-04 00:22:16
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