ひたひたり
Seia
ひたひたりと障子の裏
板張りの縁側を歩く女の影があった
夢だということはわかっていた
ずいぶん前に引き払ってしまった
もう祖母しか住んでいなかった一軒家
広い仏間には掛け軸も
どこのものかわからない土産物も
髪が伸びるという
噂だけで苦手だった日本人形も
すべてそろっていて
過去の記憶
どれよりも現実だった
ここ数日同じ夢をみている
どこかで聞いた奇譚なら
影が近づいたり
いつか障子が開いたりするかもしれないが
そういう気配はなく
漢字ドリルのひとコマ目
うすく引かれた線をなぞるように足の裏
畳の感触を残して目覚めるのだった
特に何もすることなく過ぎていく
日々の方を変えることが出来たなら
何度破っても変わらない
日めくりカレンダーごと捨てられるだろうか
ひたひたりと障子の裏
板張りの縁側を歩く女の影があった
夢だということはわかっていた
ずいぶん前に引き払ってしまった
もう祖母しか住んでいなかった一軒家
広い仏間には掛け軸も
チャイムの音に起こされて
ドアホンのモニターをのぞく
寝惚けていた時間が長かったのか
もうそこには誰もいなかった
背筋が伸びて
頭皮が泡立つ感覚があった
樟脳の残り香がするのは
ただの気のせいだと片付けた
昨日と同じ日が過ごせたらそれでいいと
初めて願った朝だった
自由詩
ひたひたり
Copyright
Seia
2019-08-25 21:59:22