カウントスタッフ
末下りょう


カチカチ 歯と鳩 カウントマシーンが音をたてる

台風がそれた朝の
まだ肌寒い堤防によせかえす波をカウントして ガラスの水滴を震わせて回る数字
鳥と虫とドローン 飛行機をみつけては指で隠す
を繰り返して

パンくずを啄み終えた鳩が
反復されない一つきりの反復につぶされそうなすれすれを
風下のほうに飛んでいく

繰り返しあらわれてくる最大数のかたさに
カウントが響くたびに
そこここでほどけていくものたちが襟足に触れて
風下のほうに去っていく

カチカチ 数字が回るたびに 青さを増して 空と海の区別が消え入るところから
距離は生まれてきて

きらきら静止する沖を優雅に泳ぐ
果てしないいきものがターンすると
波のはじまりの音が冷えた耳におくれて届き
夏の終わりの仮説はそのつど立てなおされる

波際ではしゃぐ
砂まみれのチビたちの
濡れた指のすき間が潮風を孕み
生まれるころ溶けたはずの水掻きがシャボン玉のように形成されて
幼い瞳のなかへと海が還っていく
羽を休める渡り鳥のような
まぶたにそっと仕舞われて

カチカチ まだすこしかたい数字が 波飛沫に濡れたカウントマシーンの
ささやかな記録に消え入りながら  永遠を呼んでいる



自由詩 カウントスタッフ Copyright 末下りょう 2019-08-20 21:20:40
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