砂漠のど真ん中じゃない
こたきひろし

そこは砂漠のど真ん中じゃなくて
海辺の砂浜だった

人影まばらな晩秋の海
無性に海が見たくなって家族を連れてきた

幼い娘二人と
二人を産んだ母親と
四人できた

その時
長女が何かを見つけて拾い上げた
「お父さん、これは何?」
側にいた私は
それを見て吃驚した

それは
性具だった
でも
それをためらいなく拾い上げた娘は
何も悪くないのに
私は思わず叱りつけてしまった
「子供は知らなくていい」
そして強引に彼女の手から取り上げると
海に向かって放り投げた

下の娘とその母親が
駆け寄ってきた
長女が泣き出したからだ

「どうしたの?」
母親が訊いてきた
父親である私は
「何でもない」
と答えるしかなかった
「何でもないわけないじゃない」
母親は強い口調になった

「ここでは答えられない」
と言って
「後で話すよ」
と言った

それはもしかしたら
娘が一人の女になってからかも
しれなかったが


自由詩 砂漠のど真ん中じゃない Copyright こたきひろし 2019-08-20 07:00:30
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