夜明けがくる前に
こたきひろし

あたしが
まだ赤ちゃんだった頃
産んでくれたかあさんの乳房は
あたたかい海のようだった

あたしが
まだ赤ちゃんだった頃
とうさんは
ただの一人の男の人だった

あたしがまだ赤ちゃんだった頃
オムツを濡らすオシッコや
オムツを汚すウンチは
夕映えの空のようだった

そんな中で
あたしは
すくすくと育った
訳じゃない
バランスの捻れた
心とからだは
愛情に飢えて
いたと思う

あたしには
反抗期なんて
なかったと思う
いつの間にか
反抗する相手を見失っていたから
ただただこの世界に従順なだけの
めっちゃ
可愛げのない女子になっていたんだ

そして
あたしは成長し
ある夜に
をんなになったんだ

もしこの世界に
異性が存在しなかったら
あたしはずっとずっと
美しい少女の
ままでいられたかもしれないのに
それは
あたしの
とうさんが
あたしのかあさんに
初めてしたように
とても綺麗な儀式だった

そうやって
あたしも
好きな人と
いったいになれたんだ

だけど
それはあたしの錯覚
その錯覚に
酔いつぶれて
何も見えなくなっただけ

いつだって
あたしは
夜が明ける前に
目を覚ましてしまうのが
癖のように繰り返されてしまった

切ない習慣のように繰り返して
しまった


自由詩 夜明けがくる前に Copyright こたきひろし 2019-08-16 23:00:22
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