水の音
山人

憎しみも  
羨望も落胆も
今は山道の腐葉土やゴミムシの糞となって
ころがしておこう
葉がはかすかにさざめき
木の樹皮はなめらかにひかり
木漏れ日はさらさらと山道に塗されて
山道を歩く人の耳には
清楚な心音の様な水の音が聞こえている
蝉は命の末端にとどまり
頑なな夏の入道雲に酔い
自らの腹の音に酩酊し続けている
冷ややかな湧き水のその周辺に霧が生まれ
よどんだ現実は少しづつ剥離していく
まちがいのない無欠な透明水の香りが
山道を包む
わざわいの群れの中で
かすかにひかる心の音(ね)
回りくどい生命の年月が
その水音で
いっとき癒される


自由詩 水の音 Copyright 山人 2019-08-16 08:45:50縦
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